• 齋藤元彦知事 就任2年  20年ぶりにトップ・知事が交代する歴史的なターニングポイントを経た兵庫県政。その主役たる齋藤元彦知事は就任から丸2年、4年の任期折り返しとなる8月1日に3年目に向けた会見を行い、「攻めの県政に舵を切る」と宣言した。
     新型コロナに翻弄された3年半を経て、5類感染症への移行により、社会経済活動は正常化してきた大きな状況変化を軸として、以下の3要素を例示した。
     ①県庁12部制導入による執行体制の整備、②県の貯金に当たる財政(調整)基金残高が令和5年度末に公約である目標の100億円を上回る127億円になる見込み、③自民党、維新の会そして他の会派も含めて、齋藤県政を「躍動する兵庫」に向けて支えていく県議会の枠組みもできたことを挙げた。
     魏呉蜀の三国が相食み、それぞれの軍師が知恵を競った中国 · 三国時代に「 内部の守りを固めずに、外部を攻めるのは愚策である」との言葉が遺されている。
     県政界を二分する戦いを経ただけに、「なお軋轢をなしとはしない」との観測がある。それゆえに「内なる守りを固める」、つまり職員一丸となった体制が必須条件である。そのカギの一つは風通し。会見では「知事が積極的に視察に出られることに理解はあると思うが、一方で、なかなか知事とコミュニケーションが取りにくいという声も聞かれる」と問われた。齋藤知事は「結構(コミュニケーションを)やっていると思うが、そこは、前知事との比較やそれぞれの受け止め方がある。現場に出て、様々なものを自分の目で見て聞いて、それを施策に反映することが、公務員時代からの主義」と信条を示した。そのうえで「職員とは可能な限りレクの時間を設けたり、外出時はメールやチャットなど、オンラインで指示を出したり、報告を受けることにしている」と説明、「これからより密にしていく」と理解を求めた。
     財政基金については、「残高があるメリットは、災害対応などの場合に、新たな予算をすぐに組めること。つまり、危機管理対応につながる」と必要性を述べた。知事が就任した令和3年度の基金残高は約32.8億円、実質収支(精算分除き)は約34.1億円で、これを基金に積み上げ令和4年度の基金残高は約66.9億円、令和4年度の実質収支(同)は約60.1億円と平成以降では最高となり、そのまま積立てると約127億円になる。「知事就任後、大型公共事業を見直すなど行財政構造改革を着実に進め、税収が堅調ということもあり、決算の状況も改善している」としたうえで「県財政はまだまだ厳しい状況。震災関連の借金もまだ2000億円程度あり、分収造林の負債も含めて、県財政へのリスクは高く、予断を許さない。引き続き、着実に改革を実行していきたい」となお引き締め姿勢を強調したのは印象的であった。
     議会との関係については、県議選を経て自民党が会派合併、維新の会は大幅議席増となり、齋藤県政をさらに支えていく形になった。「公明党や県民連合も含め、今まで齋藤県政の予算や条例には基本的に賛同していただいており、さらに力強い議会との両輪ができた。何がしたいのかの基軸を明確にした上で、各会派とも議論をし、県民生活にとってより良い施策につなげていきたい」と知事の有する予算編成と執行権を意識しつつ、議会との熟議の姿勢を示した。
     「内部の守り」が固まってきたと捉えることができる発言の一方で、教育環境の充実・強化へ6年間で300億円の投資、産業立地条例の改正等による次世代成長産業の創出・集積への取り組み、万博に向けたフィールドパビリオンの展開など、「躍動する兵庫の実現に向け、この2年間、着実に歩むことができた」と振り返った。「攻め」への環境が整ってきたともいえる。
     会見で齋藤知事は「攻めの県政に舵を切る」ことを表明した上で、「少子化・人口減対策は待ったなし」と提起、若者・Z世代への支援を前面に打ち出したことへの評価は高い。近畿3府県の中で唯一、兵庫県はファミリー層が転入超過となっていることを挙げ、「一つのポテンシャル」として、「これから結婚、出産する若者・Z世代の支援をしっかりやっていきたい」、「現場の声を聞きながら、特色を持って重点的に取り組む分野には、予算も含めて思い切って投資する」と今後の方向性を示した。
     3日後の4日には、県が設置している県立大学 (兵庫県立大学、芸術文化観光専門職大学) の入学金及び授業料を学部、大学院ともに、県内在住者は所得に関わらず無償化することを発表したのは、その延長線上にある。
     2025年の大阪・関西万博まで2年を切った。兵庫の活性化へどうつなげるのか、また、同年の県庁移転に向け職員の出勤率4割達成への働き方改革も始まった。物価高騰や危機管理対応など安全・安心の確保に向けた喫緊の課題も山積する。残る任期の2年は胸突き八丁となる。
     三国志の「赤壁の戦い」は東南の風が吹いて勝利した。難局にあるとき、羅針盤なき海路を進むとき、指導者の器量が問われる。齋藤知事のリーダーシップ、2月県会で表明した「虫の目(現場主義の徹底)」「鳥の目(大局的な視点)」「魚の目(時代や社会の流れを捉える)」に基づく果敢な戦略で、県政に新風をさらに起こし、「躍動する兵庫」に進んでいくことを期待したい。