斎藤新県政と県議会との論戦スタート 両雄一体、緊張感ある攻防で躍動するビートを!

 斎藤元彦知事就任から52日、初の議会洗礼となる第355回定例兵庫県議会が9月21日開会した。会期は10月22日までの32日間。21日、所信表明に立った斎藤知事は「私の使命は『躍動する兵庫』をつくりあげること」と第一声、そして「開放性を高める」「誰も取り残さない」「県民ボトムアップ型県政を進める」の3つの基本姿勢を示した。27日には自由民主党、ひょうご県民連合、自民党兵庫、公明党・県民会議、維新の会の5会派による代表質問、28~30日は一般質問、6日からは決算特別委員会による審査が行われる。新しい兵庫の創造へ斎藤新県政と県議会との論戦がスタートした。「躍動する兵庫」へ斎藤知事をリーダーとした県当局と県議会が緊張感をもって一体となり、どのようなビートとリズムを、生き生きとしたメロディを生み出すか期待される。

 21日の開会日、コロナ対策等の令和3年度補正予算案、令和2年度決算案、公約でもある知事及び副知事の給与を減額する条例案など43件を上程。提案説明に立った斎藤知事は、まず、「私たちの前には多くの課題が横たわっている。かつての成功モデルからは解決策を導き出せず、ともすれば立ちすくみかねない。成功の反対は失敗ではなく、何もしないこと。いま何より大切なのは、挑戦を起こし続けること。のびやかな試行錯誤の中から、未来への扉を開く。そんな生き生きと躍動する兵庫をめざす」と決意を表明。そのうえで3つの基本姿勢を示した。

 第1に「開放性を高める」

 様々な壁を取り払い、年齢、性別、障害の有無などに関わりなく、すべての人が力を発揮できる社会。県内に閉じた内向きの発想ではなく、近隣府県をはじめ国内外との交流・連携を深める。行政の自前主義に陥ることなく、企業や団体、大学等とのパートナーシップを広げ、オープンな県政を。

 第2に「誰も取り残さない」

 国連SDGs でも謳われている理念。大都市から農山村、離島まで、多様な地域に暮らすすべての県民が、安心して、育ち、学び、働き、遊び、しあわせに生きられる。そんな誰も取り残すことのない、人に温かい兵庫に。

 第3に「県民ボトムアップ型県政」

 県政の基本姿勢である「参画と協働」と軌を一に、現場に積極的に赴き、県民との対話を重ね、施策や取組につなげる、現場主義の姿勢を貫く。

 そして、県政の基本政策として、
 新型コロナウイルス感染症への対応と創造的復興について説明。

 一つは、新たな価値を生む経済の構築。

 ポストコロナ時代にふさわしい産業構造への転換に向け、中小企業のデジタル化や脱炭素化を後押しするとともに、兵庫に根づく進取の気性を活かしてスタートアップの集積。
 万博をもにらんだ播磨灘・大阪湾ベイエリアの活性化、水素をはじめとしたグリーン産業の創出、関西一の農林水産業のさらなる振興、近隣府県と連携した新たな観光戦略など、兵庫のポテンシャルを解き放ち、次なる成長の突破口を開く。

 二つには、安全安心社会の先導。

 住み慣れた地域で医療や介護が受けられ、孤立や孤独を生まない人のつながりがある。そんな長寿の喜びが広がる兵庫。そして、震災の経験と教訓を活かして取り組んできた防災先進地づくりの歩みを緩めることなく進める。

 三つには、未来を創る人づくり。

 多く寄せられる「安心して子育てをしたい」との声。待機児童の解消など保育の受け皿を充実するとともに、地域全体で子どもや子育て家庭を支える取組、子どもの貧困対策、児童虐待対策など、すべての子どもたちが明るい希望の持てる兵庫をつくる。
 教育は県の礎。体験教育をはじめとした兵庫の教育の特長を重視しながら、デジタル技術の活用や学校施設の改善など、新しい時代に対応した学びの環境づくりを加速。さらに、学生未来会議を立ち上げ、学生の意見を県政に取り入れる。

 四つには、個性を磨く地域づくり。

 都市に近接する豊かな自然、地域に根づいた産業・文化、五国の風土が育む多様な食といった、兵庫ならではの魅力をさらに磨くとともに、暮らしの利便性や地域の活力を高めるため、県内各地でのスマートシティモデル地区の形成や基幹道路ネットワークの充実など、情報基盤・交通基盤を強化し、人口流出県から人口流入県への転換を図る。

 五つには、県政運営の改革。

 変化の読めない不確実な時代にあって、県民の暮らしを守るためには、持続可能な財政基盤の構築が不可欠。守るべきものはしっかり守り、時代に変化に即して変えるべきところは変える。このことが行財政改革の基本。
 公民連携プラットフォームの設置等により民間との共同プロジェクトを拡大。
 県民との信頼関係は「県政の基(もとい)」。県民目線に立った広報活動、ネットコミュニケーションの充実等を進めるとともに、ワーケーション知事室などを通じて、県内各地に積極的に出向き、県民、市町、団体、企業の皆様と真摯に意見交換を行い、県政に反映する。

≪希望を持って坂をのぼる≫

 そして、斎藤知事はこう述べた。
 「私の好きな小説家、司馬遼太郎さんの著書の一つに「坂の上の雲」があります。そのあとがきで司馬さんは、明治期は一面では暗い時代だったが、その中にあって、この物語は日本史上類のない幸福な楽天家たちの物語であるとし、次のように語っています。
楽天家たちは、前をのみ見つめながら歩く。のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみをみつめて坂をのぼってゆくであろう。
多くの課題に直面する時代です。兵庫県のさらなる発展、県民生活の一層の向上に向け、希望を持って一心に坂をのぼっていきたい」

 引き続き、補正予算案など上程議案を説明した。

 斎藤知事 提案説明キーワードで読み解くと

斎藤知事 提案説明キーワードで読み解く

 これまでの間、議会各派の受け止めは、総じて「安全運転」「無難なスタート」と表する向きが多くを占めており、お手並み拝見の雰囲気が漂う。
 一方で、記者会見における最後まで質問を受け付ける姿勢や第一線に足を運ぶ現場主義には、評価の声が聞かれる。
 こうした中での初の提案説明。平易な表現の中に、意欲と配慮が滲む所信となった。そこで、キーワードで読み解いてみた。
 中では、「教育は県の礎」「県民との信頼は県政の基(もとい)」といった表現を使い県政理念の要諦を問いた。
 スローガンであった「躍動する県政」を「私の使命」とし、「大切なのは挑戦」「試行錯誤の中から未来への扉を開く」と「刷新」を強調した。
 3つの基本姿勢、第一の「開放性を高める」では、「内向きの発想」、「行政の自前主義」を戒め、第2の「誰も取り残さない」では、SDGsの理念に結びつけた。 
 そして第3の「県民ボトムアップ型の県政」では、「これまでの(井戸)県政の基本姿勢である『参画と協働』と軌を一にする」と語り、“守るべきものを守る”柔軟な方針を示すとともに、「現場に積極的に赴き」「県民との対話」と現場主義の徹底を宣した。
 県政の基本政策でも、現場主義を重視、「グリーン産業の創出」などの産業構造の転換、災害リスクへの備え、「待機児童の解消など保育の受け皿」、「学生未来会議の立ち上げ」、「スマートシティモデル地区の形成」など新機軸でポストコロナをにらんだ。
 また、県政運営については、「(財政調整基金の積み上げなど)財政基盤の強化」を挙げ、次いで「会議運営の効率化」「公民連携のプラットフォームの設置」を例示し、「仕事の進め方を見直す」とした。

 開会日には行財政運営調査特別委員会が設置された。行革の見直し内容をはじめ井戸県政のもとで行財政構造改革に対する評価についても見解が求められよう。県議会各派にとって、知事選での経緯は種々あるが、めざすところは県民の暮らしを守ることにあり、そのためのサービス向上にある。「是々非々」の関係は共通するが、その手法、選択に違いがある。斎藤知事の所信表明を踏まえ、未来をひらく建設的かつ活力にあふれる論戦こそ・・・