• ボランタリープラザ所長を務めた室﨑・高橋両氏ら鼎談 「兵庫の災害ボランティアの未来」語る  被災者支援、復旧・復興、防災・減災など安全・安心な社会の実現を目指して活躍する室﨑益輝氏と高橋守雄氏が、神戸新聞社論説副委員長の長沼隆之氏の司会による鼎談形式で「兵庫の災害ボランティアの未来」をテーマに意見交換した。
     防災の専門家で、ひょうごボランタリープラザの所長等を務めた室﨑氏は兵庫県立大学大学院減災復興政策研究科長を3月末に退任。警察官、県職員、2005年からひょうごボランタリープラザに携わり、2017年から同プラザの所長の高橋氏も3月末で退任。その前に、これまでの経験や今後の課題、将来像を語り合ってもらおうと、同プラザが主催し、3月17日、神戸市産業振興センターで行われた。その主な発言を紹介する。
     室﨑氏 もともと建築デザインをやっていたが、有馬での火事を視察したのをきっかけに、防災研究を始めた。高度成長期のころだった。事故による遺族の悲しみにふれたことが原点にある。阪神・淡路大震災では、全国の研究仲間が学生を私の研究室に寄こしてくれた。若者が自発的にボランティアをしようとする気持ちが生まれた。しかし、避難所にいってもやることがないケースも多かった。ボランティアの力をどう生かすか、活動ができる環境づくりについて考えるきっかけとなった。
     高橋氏 阪神・淡路大震災直後の2月25日、神戸市灘区の小学校で月亭八方さんが激励会を開くことになり、その手伝いをしたのが、私の最初のボランティア。以来、27年間、ボランティア元年の言葉を背負って取り組んできた。
     長沼氏 ボランティアのキーワードの一つが自発性。震災前は特別な行動だったが、誰もができる行動になった。
     室﨑氏 なぜ、阪神・淡路大震災がボランティア元年なのか。以前は組織的、グループでボランティアは動いていたが、阪神・淡路で一人ひとり、個人として自発的に行動するようになった。その時にどう受け入れるかが課題となった。2004年の中越地震からボランティアセンターが設けられ、うまくいくようになった。2014年の丹波水害では、地元の人によるボランティアへの『おもてなし』が生まれた。重機ボランティアもこの時から認められるようになった。看護など専門ボランティアが重要になった。阪神・淡路の経験が新しいボランティアの仕組みをつくったといえる。
     高橋氏 2009年の佐用水害からボランティアバスが始まった。東日本大震災では阪神・淡路の教訓からボランティアインフォメーションセンターを開設し、これがうまく機能した。いま、東北ではハード支援からハート支援に移り、若いボランティアが心に寄り添う支援を続けている。
  •  長沼氏 ボランティアの課題は。
     室﨑氏 ボランティアの固定化が進んでいる。同じ人が被災地支援を行い、災害ボランティアの取り合いとなっている。ボランティアの裾野が広がっていない。高齢化も進み、若者が少ない状況が進んでいる。それは何故か。ボランティアが尊重されていないからだと思う。ボランティアに行きやすい環境づくり、助け合いの気持ちをシステムとしてつくることが、裾野を広げるために大きな課題。さらに、ボランティアの世界に上からコントロールする部分が見え隠れしている。ボランティアをサポートする体制づくりが必要。
     高橋氏 国がボランティアを支援する制度として、旅費、宿泊費を補助する『ボラ割』制度の実現に取り組んできた。5年間で35万人の署名を国に届けた。兵庫県では震災25年を機に全国初のボランティア助成制度を創設した。長野県が同じような制度をつくった。全国に広がるよう、啓発活動を続けている。若いボランティアの裾野を広げることが兵庫の使命として取り組んでいる。
     室﨑氏 ボランティアにはお金、人、知恵・技術、そして環境・場所が必要。一人ひとりの善意を集める努力や仕組み。助け合いの大切さを心に植え付け、身体を動かし、現場で学ぶ教育。知恵は優れた教訓を学ぶこと。環境は日常的に公民館などでボランティアを受け入れる仕組みづくり。その課題の答えを兵庫から出してほしい。
     長沼氏 兵庫県は災害を他人ごとではなく、我こととして取り組んできた。このボランティア精神をしっかりと次世代に引き継がなければならない。お二人の今後の取り組みは。
     高橋氏 公職で55年間、この3月末で終わる。ボランティア助成は国で制度化されておらず、道半ばであり残念。生の体験を伝える人がいなくなることも心配している。これからは民間の立場で1.17を伝えていく。若いボランティアの裾野を広げるため、足腰が動くかぎり頑張りたい。
     室﨑氏 私は心残りはない。今77歳。27年前は50歳で自由にできた。私が辞めることで若い芽が育つと思う。新しい力が育つよう、みんなで励まし合ってほしい。これからは、私が被災地で関わってきたがことが良かったかどうか、じっくり見ていきたい。私自身の歩み、日本の防災・減災の歩みをゆっくりと見つめ直し、検証する時間にあてたい。
     長沼氏 支援者を支援する文化を実現する途上にある。真に豊かな社会づくりへ、復興、減災の取り組みに終わりはないと実感した。お二人の精神が生かされることと、今後の活躍に期待する。